3000文字チャレンジ

最初で最後のスキー。【3000文字チャレンジ】

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ウィンタースポーツの中で得意なものはどれ?と聞かれたら、迷いなく「スケート」と答えています。

父がスケート好きだったこともあって、小学校1年生くらいのころから毎年近場のスケート場に連れていってもらうことが、冬のお楽しみでした。

 

前傾姿勢を保つこと。

コーナリングの走り方。

ひょうたんでバックする滑り方。

ブレーキのかけ方。

スケートの色んなことを、私は父から教わりました。

走りに走って重くだるくなった足で、冷え冷えとしたスケート場で食べるカップヌードルがご馳走みたいに感じたこと。

 

兄はスケートがあまり好きにはならなかったらしく、途中から行かなくなりましたが、それでも私は12歳くらいまで父と毎年スケート場へ行っていた気がします。

ときには、私の友人も何人か一緒に。

父が友人達にスケートの滑り方を教える姿は、私にとってすごく誇らしかった。

 

父は、当時スーパーマリオのマリオにそっくりでした。外出するときには必ず帽子を被っていて、口ひげがトレードマーク。マリオそっくりな父がスィースィーと軽快にスケートで滑る様子は、子どもながら「可愛らしいな」と思っていたのでした。

毎年のようにスケートを楽しんでいた冬。ビュンビュンとスピードに乗って走るのが気持ちよくって、ひたすらに何周も何周も走り回っていました。

 

そんななかやってきた、高校1年生のスキー合宿。

今思うと、なぜスキーの合宿だったんだろう?と不思議だけど、海無し・雪もほとんど無し県の埼玉ですから、先生達の話しあいでそんな合宿が組まれたのかなぁと思います。

 

それまでスケートしか滑ったことがなかった私にとって、スキーは初めての体験。

どこまでも広く続く真っ白なスキー場を初めて目にして、自然とドキドキとしてきます。きっとスケートと似たようなもののはず。2日間あれば、すいすいと滑れるようになるはず。そんな期待を抱きながら臨んだスキー合宿。

 

初めてのもこもこスキーウェアに身を包むと、急にスキーが滑れるような気持ちになってくる。

1学年だけでも300人はいたかと思いますが、みんなお揃いのレンタルのスキーウェアを着ている姿は、ちょっと圧巻。

女子校だったので、ほんのりと旅行気分でわやわやと賑やかな一団でした。

 

スキー場では、経験者と未経験者のクラスに分けられます。もちろん、私は未経験者クラス。

坂ともいえないようなほとんどフラットの雪の上で、ストックの握り方、立ち方、歩き方、滑り方を教わりながら皆でよちよちとトレーニング。

お昼ご飯は、レストハウスで皆一緒にカレーライス。

おそらくはレトルトのカレーだったかと思いますが、スケート場で食べたカップラーメンの時の感動が蘇ってくるみたいな美味しさでした。

 

 

午後からは「これは、小さな子どもがソリ滑りをしても楽しくないだろうな……」と感じるくらいに緩やかな坂道で、ジリジリと滑る練習。

これなら大丈夫そうだと友達とキャッキャとしながら、終えた1日目。夜中は話しても話しても話し足りず、先に寝てしまった友達に悪いからと、廊下の死角で仲良しの友達と話し続け。

もちろんすぐに先生に見つかってしまって、そそくさと部屋へ戻ったのでした。

 

 

2日目には「初級者コースへ行ってみようか!」と先生から言われ、初めてのリフトへ。

てっきりシートベルトがあるのかと思っていたのですが、なんとリフトにシートベルトは付いておらず。

とにかく落ちないようにと、のけぞりながら脇のポールを力強くググっ!と握りこんでいました。リフトに乗るだけのことでも、わあわあと賑やかな女子高生達だったのだろうなぁ。

 

リフトから見てもわかるんですが、初心者コースは坂の傾斜がどうやら本格的な角度になっている。1日目の角度が傾斜3度なら、2日目の初心者コースは20度はあるかといったところ。

(調べてみたら、上級者コースは角度が30度もあるそうで!いったいどんな景色が広がっているんだろう?)

スタート地点にたどり着くと、想像以上の角度に尻込み。

 

初心者グループのみんなで、足を八の字に保ったまま、ゆるゆるそろそろとシュプールを描きながら滑りおりてゆきます。

板が真っ直ぐになるとスピードが出てしまうから、八の字をなるべくギリギリとキープしたまま出来る限りスピードをころして滑り降りてきていたのでした。

 

 

そういえば「スキー場では、男子のカッコ良さ・女子の可愛さが数倍増し」になると聞いたことがあったんですが、確かに。

広瀬香美のウィンターソングが爆音で流れるなか、マイスキーウェアとゴーグルを着こなして颯爽と滑り降りてくる大人のスキーヤー達は男女問わず、皆ぴかぴかと光輝いてみえる。

シューっと滑ってきて、ザザザっと勢いよくブレーキをかける姿がどう見たってカッコいい。眩しそうにゴーグルを上げれば、どんな人でも不思議と素敵に見えてくる。「きっと、ここでロマンスが生まれるのだろうなあ……」と、当時彼氏もいなかった16歳の私は、まぶしく眺めていたのでした。

ゴーグルを取った瞬間に「おじちゃんだ!」とわかったとしても、滑っている瞬間はキラキラと魅力的に見えるんだから不思議なものだと思いながら、私はその後はせっせとフラットな練習場へ戻って歩く・滑るの練習をしていたのでした。

 

 

そして、2日目の午後に最終テスト。

「テストなんてあったの?聞いてなかったような?」と焦っていると

おそらくは25度はあろうかという角度の坂(距離は短め)を、板を真っ直ぐにキープしたまま滑り降りてくる「直滑降」をするというテスト。このとき、ストックは脇に抱える格好になるので、さながらスキージャンプの助走のように滑り降りてくるわけなのです。

 

教わったこともないのに!これが最終テスト!?と皆そろって大ブーイング。

私はその後ろから、目の前に広がる急角度の坂道に慄いていました。

先生が「見本見せるぞー」と、ストックを抱えてスススーー!!っと、一直線に滑りおりてゆきます。

「順番に降りてこいー!」と言われて、上級者さん達は次々に直滑降で颯爽と降りてゆく。

 

初心者グループだった私達は、わやわやと、どうにか逃げ出せないものか?滑っているうちに失神するんじゃあないんだろうか?と話しあっていました。

「つぎ、初心者グループ降りてこいー!」

みんな観念して、一人ひとりと、声にならない叫びを上げながら直滑降で続いてゆきます。

 

「板がクロスすると転ぶからなー」確かそんな指示を飛ばしてくれていましたが、とうとう自分の番。

ググっとゴーグルを下ろして、見よう見まねでストックを脇に抱えこむ。膝を曲げて、前傾姿勢を保ったまま、そろりそろりとスタート。

とにかく板をまっすぐに!だけ考えて足に力を入れながら、シューーーー!!っと滑り降りてゆきます。

「もう、だめだ。終わりだ」

と何度となく思った瞬間。

想像以上のスピードと恐ろしさで、頭の中が真っ白になりながらも、なんとか直滑降のテストを終えたのでした。

 

直滑降のトラウマ級の恐ろしさに「もう、二度とスキーはやるまい」と心に決めた、16歳の冬。

 

あの16歳の冬以来、やっぱりスキー場には訪れていません。

20歳前後は友人達からスキーやスノボに誘われたこともありましたが、のらりくらりとかわしてしまっていました。「私はスケートの方が性に合っているから」と。颯爽とスキーやスノボを滑る姿に憧れることもあるけれど「やっぱり怖い」の印象が強すぎて、なかなか足はスキー場へと向きません。

いつの日か、人生で2度目のスキーを楽しむ日はやってくるんだろか?

 

それからも、私はやっぱり冬はスケートを楽しむばかりです。

マリオ似の父の様に子どもの友人達に、ちょっと自慢気にスケートを教える日も近いのかなァとそんなことを思っています。

おわり。

 

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