コバルトブルーに白い模様が刻みこまれた扉
を開けると、目の前には広い真っ青な海と続く空が広がっていた。
真ん中には、透明な水平線。
波の繰り返す音を身体に充満させる。
潮の匂い。
水滴がぽたぽたと空から垂れてきた。
「そうか、あの日・・・」
と思いながら少し波で足元を濡らしたまま、扉を静かに閉める。
ふと見ると、前にも上にも下にも横にも
扉がいくつもいくつも続いている。
2つ隣にある木の小さな扉を開いてみる。
森の中。
小さな女の子が目の前をシュンと通りすぎたかと思うと、野犬が向こうからすごい勢いで追い掛けていく。
なんとか木によじ上った小さな女の子は、下から吠える犬を見てることしかできない。
大人から入ってはいけないといわれていた森。
しばらく見ていると、野犬は踵を返して遠くへ走り出した。女の子はそれを見て、ずるずると木から下りてくる
「まっすぐに帰るんだよ」
10歳の私に、声をかける。
こわごわ歩き出した女の子を見送ってから、扉を閉める。
扉の先はうねうね道。
歪んだ扉やぴかぴかしている扉や頑丈そうな扉もある。
うねうね道の奥にあるオレンジ色の扉を開けてみる。
小さな女の子と小さな男の子がちぎれんばかりにブランコを揺らしている。
得意そうに男の子が靴投げを始めた。
靴はおおきな弧をゆるりと描いて、遠くまで飛んでいく。
女の子も負けじと靴を放るけど、すぐ手前にぼすっと鈍い音を立てて落ちてしまった。
「また小春の負けー」
「お兄ちゃんはズルいんだ!」
とうとう5歳くらいの女の子は泣きだした。
いつも真剣勝負を挑んでいつも負けて、くやしくて泣いていた。
走り出した小さな男の子の後ろを、それでも嬉しそうに女の子はくっついて走っていった。
あたりが夕焼け色に染まって、晩ご飯の匂いがする。
小さな足音が遠ざかるのを聞いて、また扉を閉める。
うねうね道の奥は5本に道が分かれている。
真ん中の一番狭くてちょっと暗い道を歩くことにした。
その道は天井がだんだん低くなる。
膝をつかないと歩けなくなった。
遠くに小さな光を見つけたとき、右側の扉の中から「トントントン」と扉を叩く音がした。
濃い紺色の扉。
ドアノブがぴかぴかと光っている。
どうしようか迷っていると、また「トントン」と叩く音。
開いてみると、そこは夜の遊園地だった。
光が水たまりに反射して、地面もぴかぴかに光っている。
おもちゃ箱みたいにきらきらした観覧車の中で、私は照れ臭そうに笑っていた。
一番最後の片思いの場所だ。
観覧車で、向かいじゃなくて隣に座ってきたから、ほんのりとドキドキしていた。嬉しそうな笑顔を向けてくれるから、両思いなのかも、なんて20代も後半だというのに中学生みたいなことを思っていた。
とても、あまっちょろかった。
緊張しながら外のきらきらした景色を眺めている私がみえる。
「がんばれ」
ちいさく声をかけて、扉を閉めた。
そこからはどれくらい歩いたのかわからない。
ぐるぐる道や一本道を足の向くままに歩いていくと、足元にマンホールのような形の扉があった。
少し重い扉を横にずらして開けてみる。
真っ暗な世界が広がっている。
と思ったら、黄色く光る、卵の黄身のような丸が道を作っていた。
ムーンリバー。
ここまで続いてきた、始めの日。
黄色いお月様は、焼きたてのホットケーキみたいだ。ゆらゆらと月の道は水面で揺れ続ける。
扉を閉めることはせず
しばらくきらきらひかる月の道をみていた。
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