私は、クイーンサイズのベッドの上にいる。
仰向けに寝ていると、少し趣味の悪いシャンデリアがきらきらと光っているのが見える
同棲して、もうすぐ1年。
気が付けば私は、彼のお母さんになっていた。
同棲するときに身体の大きな彼が用意したクイーンサイズのベッドは、1部屋を埋め尽くす大きさだった。ベッドの他には、大型の本棚が1つだけ。
漫画が趣味だという彼の本棚には、ぎっしりとワンピースやらこち亀やらひぐらしやら。ぴっしりと並んで揃えられていた。
ベッドから手を伸ばせば、すぐに漫画の棚に手が届く。
私はころころとベッドを転がり、本棚の前でぴたりと止まる。
カイジを手に取り、読み始める。
沼。
この回がすごく好きだ。
なんとなく、今の私みたい。
0時。
もうすぐ、彼が仕事を終えて帰ってくる。と思うと、少し息苦しさを感じるようになっていた。
彼から暴力を振るわれるようになったのが、つい3カ月前のこと。
付き合いたての頃に優しかった彼は、同棲し、時間が経つうちに仕事以外の全てを面倒くさがるようになっていった。
気が付けば、私は彼に代わり全ての家事や雑多なことを任されるようになっていた。デートらしいデートも無くなり、外へ誘っても食事をすることにしか興味が無い。
それに対して私が何か言えば彼の顔は一瞬にして、ひりついた表情になる。
そして、張り手が飛んでくる。
大きな身体から放たれる張り手は、顔だけではなくて、容易に身体ごと吹っ飛ばされる。
その恐怖心を植え付けられてから、気持ちをだんだんと伝えられなくなっていた。
もし、別れを切り出したりなんてしたら?
自分の命が本気で危ないと、思い込むようになっていた。あの大きな手が首にかかることを想像しただけで、震える。
私の荷物は、大切なものも全て、この部屋の中にある。
逃げられない。
もう、どうしようもない。
諦めるしかない。
私が何かを主張をしなければ、とりあえずは暴力を振るわれることはない。
大人しく家事をしていればいい。
そう、思い込もうとしていた。
彼と暮らし始めて暴力を振るわれるようになってから、持病の喘息が悪化していた。夜中になると喘息がひどくなり、横になって眠れない日が続いていた。
音楽仲間で集まったある日。
帰り際に、怖い顔のメンバーにちょいちょいと呼び出された。
他のメンバーは、もう散り散りに解散していた。
「なんかあったろ」と。
かいつまんで、今の暮らしのことを、話した。
私の話を聞いていた怖い顔のメンバーは
さらに怖い表情になって、黙っていた。
「何も持たなくて良いから、とりあえず俺のところに来い」
その日は小さなかばんに、財布と携帯電話とハンカチにリップくらいしか入れていなかった。
「帰っちゃ駄目だ」
「俺のところに来い」
堰き止めていた気持ちは、涙になって流れていた。
「ずっと、好きだった」
今、その怖い顔のメンバーは、夜勤前に子ども達が身体に乗りかかってくるのもおかまいなしに、ぐぅぐぅと眠っている。
息子がぐねんぐねんと上でローリングしてキャーキャーと跳ね上がっていても、娘が頭をベンチ代わりにして座っていても、びくとも目覚めない。
ぐぅぅぐぅぅぐぅぅ・・・
寝ていると表情は少し和らいで、クマみたいだ。
思わず、笑う。
私は、その隣で例年どおりに箱根駅伝を胸熱く応援する。
旦那さんはおせち料理が嫌いだから、今年も我が家はお雑煮と、私が好きな伊達巻だけ。
なんの変哲もない、お正月。
でも、心が丸く、幸せなお正月。
お互いに、お疲れさま。
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