3000文字チャレンジ

7 【3000文字チャレンジ】

4+

 

私が7歳の頃

新しい引っ越した先で初めてできた友達は、包丁とぎのおっちゃんだった。

 

幼稚園まで住んでいた社宅を離れるとき

レッドロブスターでお別れ会をしてもらって、皆んなからの寄せ書きの色紙をもらった。

お別れの日。

皆んなが手を振ってくれて少し寂しかったけど、ワクワクの方がすごく大きかった。

 

 

新しい団地は、けやき並木にかこまれたところで初めて立派なけやき並木を見たときには、ハワイに来たのかな?と7歳ながら思っていた。

 

新しいランドセル。

お母さんが1個1個、油性ペンで名前を書いてくれたお道具セット。

新品の教科書とつやつやのノート。

新しい学校。

まだ話したことのないお友達。

全部がぴかぴかで、嬉しさに胸がはちきれそうだった。

 

1学期は、1つ1つのことに夢中だった。

少しずつお友達と話すことも増えてきていたけど

放課後に一緒に遊ぶお友達は、まだ居なかった。

 

 

だから、放課後は大抵1人で、自作のへたくそな歌を歌いながらローラースケートで団地内を滑っていた。

 

ローラースケートに飽きたら、木によじ登ってみたりダンゴムシをつんつんしてみたりしていた。

1人で遊んでいても、不思議と寂しいとはあんまり思わなかった。

 

私の団地には、時々、包丁とぎのおっちゃんがやって来る。

 

始めは遠巻きに見ていたけど、ローラースケートにも飽きてきたある日、おっちゃんの前でじぃっと座ってみた。

おっちゃんは「邪魔だ」とも「帰れ」とも、言わない。

 

今度は、隣に座ってみた。

こちらを、ちらと見ただけでやっぱり何も言わない。

 

私も何にも話さないまま、おっちゃんの横で犬の散歩をしている人や買い物袋を提げた人達を眺めていた。

 

それからも

ローラースケートに飽きると、包丁とぎのおっちゃんのところへ行くようになった。

包丁とぎのおっちゃんは、ほとんど喋らない。

私がその日の学校であったことを話すと「うん」とか「そうか」とか、相槌を打つばっかり。

 

シャッシャッシャッシャッシャッ

 

あぐらをかいて、砥石に水をつけながらいつものペースで包丁を研ぐおっちゃん。

砥石は黒くて、いつもツヤツヤしている。

そばには、団地の人たちに頼まれた、新聞紙にくるまれた包丁が何本か置かれている。

 

おっちゃんに今日の報告を終えると、おっちゃんは喋らないから、私はまたローラースケートで滑りだす。

ローラースケートに飽きると、今度はボンヤリおっちゃんが研ぐところを見る。

私もおっちゃんもあんまり喋らないけど、なぜか居心地が良かった。

 

シャッシャッシャッシャッシャッ

 

包丁研ぎのおっちゃんの隣に、また並ぶ。

暇になったから、後ろの木に上る。

おっちゃんはこちらをちらりとも見ずに、おんなじように包丁をシャッシャッ。

おっちゃんの綺麗な白髪が、おひさまの光でぴかぴか光ってる。

 

一番てっぺんまで上って、空をぼんやり見る。

 

シャッシャッシャッシャッシャッ

 

お腹が減ったから、お家へ帰ろう

木をするすると降りて、家へ駆け出す。おっちゃんには「じゃあね」とか「またね」も言わない。

言わなくても、離れたらそれは「またね」なんだなと思っていたから。

シャッシャッの音が小さくなっていくのを、いつも後ろに聞いていた。

 

 

ある日、近所の大きな公園へ遊びに行ってみた。

何度か遊びに来たことがあったけど、今日こそ洞窟の中に入りたい。

 

戦争中に掘られたのかな?と思える、外から見ただけではわかりづらい、深く長い洞窟があった。

以前公園へあそびに来たとき、高学年のお兄ちゃん・お姉ちゃん達があのなかへ入っていくのを見て

一度でも良いから、入ってみたいと思っていた。

 

近くまで来ると、入り口まで草ががたくさん茂っていて中の様子が分からない。

思い切って中に入ってみると、小さな丸い光が向こう側に見える。洞窟はあっちと繋がっているんだ。

 

少し怖いから、入り口の近くに腰を下ろす。

 

洞窟のなかには、誰もいない。

私だけの秘密基地だ!嬉しくなってドキドキする。

家から持ってきたおせんべいをポケットから取り出して、秘密基地の中でむしゃむしゃ食べた。

ゲジゲジみたいな虫が、少しあっちの方で動いてる。

 

 

と、

急に、目の前が暗くなったと思ったら

入り口が黒い影にふさがれていた。

 

「お嬢ちゃん?」

どこかで聞いたことがある声だけど、怖い。

身体が固まる。声も出ない。

「お嬢ちゃんだね?」

あれ?

おっちゃん?

 

そろそろと出てくると、包丁とぎのおっちゃんが立っていた。

いつも座っていたから分からなかったけど、思っていたよりも背が高い。

あたりは夕焼け色になっていた。

 

「もう暗いから、車で家まで送ろう」

そっか。もう、夜になっちゃうのか。

お母さんは知らない人についていっちゃダメって言ったけど、包丁とぎのおっちゃんは、友達だから大丈夫だ。

「うん。」

と言って、おっちゃんが歩くのについていく。

 

 

公園の駐車場に、白い少し小さめの車が停まっていた。

おっちゃんが助手席を開けてくれた。

助手席はお母さんの特別な席だから、乗ったことがなかった。

助手席に座れたことが嬉しくて、周りをキョロキョロしてるうちに、車は滑り出していた。

シートベルトは、首にひっかかって、少しチクチクする。

 

公園から家までは10分くらい。

いつもの道だと思っていたら、急に違う景色になった。

まぁ、いいか。

お母さんの特別な席に座れたんだから。

 

ウキウキと流れていく景色を見る。

おっちゃんは、やっぱり喋らない。

周りは暗くなって、すっかり夜の景色になったところで、初めて、ここはどこなんだろう?と思った。

 

街の中だ。

灯りがピカピカしている。

 

と、

おっちゃんが

「お家の電話番号はわかるかい?」と。

引っ越してきたばかりで、新しい番号はまだ覚えていなかった。

「ううん、分からない。知らないよ。」

おっちゃんの頭が、少し前のめりになったような気がした。

 

 

また、しばらく車で走った。

おせんべいは食べたけど、お腹が減ってきた。でも、お腹が減ったって、今は言っちゃいけない気がする。

と思っていたら、四角いまぶしい光の箱の前で車が停まった。

 

おっちゃんが車から降りたから、それにならう。

「ジュース、飲むかい?」

「うん!りんごジュース!」

おっちゃんは自動販売機からりんごの冷たいジュースを買って私に渡してくれた。

 

おっちゃんは、自分の分の缶コーヒーを買った。

一口飲んで、タバコを吸い始めた。

初めて嗅いだ匂い。ちょっと、くさい。

 

喉が乾いていたから、私はりんごジュースを一気飲みした。甘くてひんやりして、すごく美味しかった。

おっちゃんは難しそうな顔をして、缶コーヒーをちびりちびりと飲んで

「帰ろうか」

と私に言って、車へ乗り込んだ。

私も缶をゴミ箱に捨てて、小さな白い車のなかにおさまる。

 

 

しばらく車が走ると、なんとなく見覚えのある景色になってきた。この坂道をすぎれば、お家はすぐそこだ。

家の下で車を停めてくれて「じゃあな」とおっちゃんが言ったから「うん、バイバイ。」と私も返した。

今日でさらにおっちゃんと仲良しになれた気がする!と不思議な満足感にひたっていた。

 

 

「ただいま〜」と玄関のドアを開けると

お母さんの叫び声が玄関まで飛んできた。

時計を見ると夜の7時になっていた。お兄ちゃんは隣でもう、パジャマを着て眠そうな顔をしてる。

 

何があっても必ず、5時には家に帰ってくること。お母さんと、指切りげんまんしたこと。大遅刻だ。

これまで、なんとなく包丁とぎのおっちゃんのところへ行っていたことをお母さんに話したことがなかった。

なんとなく、怒られるような気がしていたから。

 

でも、お母さんに促されて

今日あったことを全部話したら

二度と包丁とぎのおっちゃんには近づかないように、と。

何度も何度も何度も、言われた。

ちょっと寂しいけど、お母さんを悲しませてしまったからそうするしかないのかもしれない。

 

 

その日の夕ご飯は、大好物のお母さんのミートソーススパゲッティだった。おかわりもしてお腹いっぱい食べたら、私もすっかり眠くなっていた。

 

 

その日の出来事があってから、包丁とぎのおっちゃんがうちの団地へ来ることはなくなった。

お母さんはダメだって言ったけど、またおっちゃんの隣にこっそり座りたいと思っていた。

あれが最初で最期の、バイバイだった。

 

おっちゃん、本当は、あのとき・・・

 

 

* * * * *

~あとがき~

包丁とぎのおっちゃんは、実在の人物です。

実際に私が引っ越してきたばかりの7才のときに、初めてできたと思ったお友達でした。

実際のおっちゃんはほとんど喋ることはなくて、私もなんにも喋らずに、いつもボンヤリと包丁をとぐところを見たり隣に座ったりしていました。

 

洞窟のくだりから初めての創作で書いてみたんですが・・これが、難しかった!( ̄∇ ̄)w

いつか、3000文字に登場してもらいたいと思っていた、包丁とぎのおっちゃん。

全然違うのに、悪役にして、ごめんね。w

 

子どもが生まれてから「誘拐」について考えるようになりました。

どうやったら「誘拐」を子どもに伝えられて、「誘拐」から子どもを守れるんだろう。

イラストを描いてみたり人形劇にしてみたりして説明してみたけど、多分まだ4歳の息子くんはあんまり理解できない様子。

体験したことのない、全然予期せぬことを子どもへ伝えるって難しいんだなって、最近考えています。

 

3000文字チャレンジがこれから少しずつ形が変わっていくことになりそうですが

私の今の1番シンプルな気持ちは

3000文字チャレンジが、好きです。

3000文字チャレンジに集まっているブロガーさんも、好きです。

話しかけにいきたい片想いのブロガーさん達が、まだまだ沢山います。

これからも、この気持ちはきっと変わらないんだろうな( ¨̮ )

 

では♪

本日もお付き合い頂いて

ありがとうございます(*’▽’)

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