先日、旦那さんが珍しく「DVD借りてきたぞ!」と帰ってきた。
借りてきたDVDは、スタジオジブリの「風立ちぬ」
珍しいセレクトだなと思いながら、子ども達が寝静まるのを待って夫婦2人で鑑賞することになった。
「これ、買ってきたぞ!」と、コンソメパンチのポテチと私が大好きなカシスオレンジをちゃぶ台に嬉しそうに置いてくれた。
旦那さんはアルコール強めのグレープフルーツ味の酎ハイ。いつもの500mlのやつだ。
「なんで風立ちぬが見たかったの?」と聞くと
「だって、零戦の話だろ」とのこと。
旦那さんは、なんでそこまで知ってるんだろうかと思うほど乗り物系の造詣が深い。
電車もバイクも車も、反対車線を通り過ぎていったものを「あの車種は珍しい」だとか「未だにあのバイクに乗ってる人がいるのか!」とか、色んなバイクや車の感想を話しながら運転するのが好きだ。
私は助手席で全くわからないまま「ふむ」とか「ほう」とか「そうなの」とか色んな相槌を、打つ。
「風立ちぬ」は宮崎駿さんが最後の長編作品と意気込み、監督を務めた映画だということは知っていた。
確か一度だけ見たことがあったけれど、そのときにはするりと見てしまっていたのだ。
もう一度、ちゃんと見てみよう。
そう思いながら、旦那さんの横でカシスオレンジのプルトップを開けていた。
あらすじをおおまかに説明すると、日本を代表する戦闘機、零戦を設計した堀越二郎さんという人の半生を描いた作品です。
戦闘機がたびたび映画のなかで登場するのですが、そのたびに旦那さんは「あれは〇〇っていう名前でな、こっちは〇〇っていうやつでな」と、説明してくれる。
本当に16歳も年上だというのに少年みたいな人だ、と思う。
改めて、じっくりと旦那さんの解説を聞きながら見る「風立ちぬ」は、以前抱いた感想とは全く異なるものだった。
これは、宮崎駿さんが心から描きたかったものを、自分の満足がいくまで描き切るための作品だったんだなということに気付く。
だって、きっと宮崎駿さんは十分に知っている。
どんな映画を描けば、大勢の人が見てくれて大勢の人の共感を得られて興行収入が跳ね上がるのか、を。
「そんなことじゃないんだ」と、宮崎駿さんの声が聞こえてくるような気がする。
俺は俺が描きたいものを、純粋に全力で描きたいんだ、と。
「風立ちぬ」を見ていると、そんなメッセージが届いてくる。
実際の想いまではわからないけれど。
旦那さんは「宮崎駿さんは戦争を憎んでいるけど、戦闘機が大好きなんだよ。俺とおんなじだ」と、ぼそっと話した。
だから、これを借りてきたんだな。ようやく納得した。
「風立ちぬ」を観たなかでとても印象的だった、カプローニさん(二郎が憧れている航空機の設計士)の言葉を抜粋しておきたい。
カプローニ「まだ、風は吹いているか?日本の少年よ」
二郎「はい!大風が吹いています」
カプローニ「ならば、生きねばならん。Le vent se lève, il faut tenter de vivre(風が立つ。生きようと試みなければならない)」
~ ~ ~ ~ ~
カプローニ「創造的人生の持ち時間は10年だ。君の10年を力を尽くして生きなさい」
~ ~ ~ ~ ~
二郎「私たちの国は貧乏です。技術も未熟で、とてもこれだけのものは作れません」
カプローニ「設計で大切なのはセンスだ。センスは時代を先駆ける。技術はその後についてくるんだ」
スタジオジブリ「風立ちぬ」より
これらの言葉が、心のなかで大きく響いた。
きっと以前は、看護師をしていた独身時代に見たのだと思う。
そして今は、家族を持ちフリーランスのwebライターをしている。
たった10年でこんなにも生活は変わるものなんだ、と少しばかり驚くけれど。
フリーランスになってから、必死にもがくことが多くなったから。浮かんでは沈み、沈んでは浮かび上がる。
だから、カプローニさんの言葉がこんなにも心のなかで揺れて響くのだと思う。
「風立ちぬ」の物語は、BGMがとても慎ましやかだ。
けれど、戦闘機が登場するシーンでは画面が飛び出したのかと思うくらいに迫力のあるオーケストラが奏でられたりする。エンジン音もプロペラ音も、飛行機の本当のそれのようだ。
「かっこいい!!」と宮崎駿さんが思うものを、一番にかっこよく見せるための演出なのだろうと思う。
さまざまな戦闘機が登場するのを見ていて「宮崎駿さんは、この映画を描くためにたくさんの戦闘機の勉強をしたのかな?」と旦那さんにいうと
「宮崎駿さんなら、すでに知識として頭に入っていたんだと思うよ」と話す。
ほんとかなんてわからないけれど、きっとそうなんだろうと思う。
多くのシーンで出てくる戦闘機の翼の緩やかな丸みもプロペラの角度も。
それこそ、宮崎駿さんが戦闘機の設計士のように一から図面を描き、こだわりぬいて仕上げた機体達なのだろう。
ちなみに「風立ちぬ」では、ジブリにはめずらしくキスシーンや夫婦の初夜のシーンの描写も描かれている。「子どものために描いたアニメじゃないんだ」という言葉も、どこかから聞こえてくるような気がする。
「風立ちぬ」の試写会を終えた宮崎駿さんは、初めて自身の映画を見て泣いたと聞く。
風の谷のナウシカから始まり、一体どれだけの達成感に包まれただろうか。
私は今、この「風立ちぬ」と出会えて心からよかったと、思う。
そう思わせてくれた旦那さんの解説がきっと、ものすごくわかりやすくこの映画の魅力を伝えてくれるものだったんだ。
突風に立ち向かう人に
追い風に乗ろうとしている人に
これから風を掴もうとする人達にも
もっとたくさんの人に見て、たくさんの人に語ってもらいたいアニメだなって。そう思います。
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