ぴろぴろぴん ぴろぴろぴん
目覚ましを、止める。
10分くらいで簡単な身支度を済ませると、するりと玄関のドアを出る。
今日は化粧はしない。
気持ちばかりの、日焼け止めだけ。
まだ、家族は夢の中だから、カギを閉めるのもゆっくりかちり。
玄関を出るのは朝の5時30分。
空も街も、まだ暗闇。
しっとりした空気が充満している。
車もほとんど走っていない。
駅へ向かう人は、ちらほら。
川には、薄い氷がぱりっと張っている。
さっっぶーーーーーーー!!
さかさかと、早歩きになる。
あったかい缶コーヒーをいつもの自動販売機で買って、コートのポケットにつっこむ。
駅のコンビニで肉まんを一つ買う。
大丈夫。
PASMOにはまだ1000円くらい入ってた。
しばらく電車が来ないホームで肉まんをかじる。
あったかくって美味しい。
滑り込んできた下りの電車は、がらんがらん。
縮こまって座って、身体が温くなるのを待つ。
送迎バスが迎えにくる駅に下りる。
そちらのホームは、もうすっかり朝の駅のホームの顔になっている。
工場派遣まで送迎をしてくれるバス停に着くと、既に長蛇の列になっていた。
いつもの現場のおじちゃんの姿も見えた。
作業着のまま、並んでいる人も多い。
ダウンを着ている人もいれば、薄手のジャンパーを着ている人もいる。
スマホを見て俯いてる人。
前をじっと見ている人。
でも、この列に並んでいる人達は、スマホを取り出さず何もせず、じっと立ち並んでいる人が多い。
列の、一番後ろに並ぶ。
寒い寒い。
バスは時間が決まってるけど、なかなか来ない。
だだっぴろいスペースにある2月のバス停は、風が遠慮なしに吹き付ける。
私が住んでいる街とこの派遣先の街では、朝の体感温度が5度は違うなぁと、思う。
空気が透明だから、冷たい温度もそのまま届く。
さっっっっっぶーーーーーーー!!!
顔をぎゅーーっとしかめる。
ポケットの中のほとんど温くなってしまった缶コーヒーをもう一度握りなおす。
前に並んでいる人達の肩も、ちぢこまる。
けれども皆、とても静かに並んでいる。
予定より15分遅れたバスは、ようやくとろとろやって来る。
待機列にいた人がゾロゾロと、大きめの送迎バスに乗り込む。
「おはよ」
「おはようございます」
現場で仲良くなった人も乗っていて、ホッと挨拶する。今朝、初めて声を出して、ちょっと笑った。
寒くてこわばって、あんまり口が動かなかった。
夏は、汗のすっぱい匂いでいっぱいの送迎バス。
冬は、まだ外の冷え切った空気をまとった人と、うっすらのタバコの匂い。
皆着込んでいるからモコモコで、車内も窮屈になる。
補助席まで満員に詰め込んで、バスはようやくゆるゆると走りだす。
今日は力仕事になるのか。
ライン作業になるのか。
はたまた、OPP袋詰めになるのか。
どれになっても、けっこう好きなんだ。
いつの間にか、あったかくなったバスの中。
両脇の人のモコモコダウンに挟まれながら、少しのあいだ目を閉じた。
* * * * *
少しのんびりと3000文字チャレンジに参加したいなぁと思って、今回は文字数制限無しの「さんぜん文字チャレンジ」に参加させて頂きました。
何度も思い出す朝の風景について書きました。
大好きだった工場派遣に行くときの朝の話です。
最近暑いから「寒~い記事が書きたいな」ってボンヤリと思っていたので、丁度よかったです(*’▽’)。笑
また、是非のんびりと参加させてください~♪
3000文字チャレンジはこちら!→https://twitter.com/challenge_3000
さんぜん文字チャレンジはこちら!→https://twitter.com/nakano3000